====================


1990年8月27日

リセッション


  米国経済がリセッション入りするとの見方は昨年からあった。ペンシルベニア州の経済調査専門家のアルバート・シンドリンガー氏はことし初め、「全米的なリセッションは近い」との予想を発表していた。
  リセッションとは景気の一時的後退のことだ。定義は必ずしも確定していないようだが、『ロサンジェルス・タイムズ』紙(十三日 ジョナサン・ピーターソン記者)は「経済活動が全国規模で六か月間以上にわたって縮小する状態」をリセッションと呼んでいる。

  産油各国に石油価格を引き上げるよう圧力をかけていたイラクが今月二日、突然クウェートに侵攻した。中東に再び深刻な危機が訪れ、世界への石油供給が不足して、価格が高騰するのではないかとの不安が広がっている。
  一九七〇年代の二度の“オイルショック”とは異なり、経済への打撃は今回はあまり大きくならないだろうという見方がある一方、石油価格の高騰による原材料・燃料費負担の増加で世界の産業が手痛い影響を受け、消費活動が停滞する可能性は高いとする意見も多い。
  そんな状況下で『タイムズ』は「今回の石油危機が起きる以前に米国経済はリセッションに入っていたと多くの専門家が考えている」と伝えていた。

  同紙によると、専門家は@失業率の上昇A工業製品に対する注文の不振B小売の停滞C建築産業の不況―などをリセッション入りの証拠として挙げていた。同時に、借入金のの調達も困難になっており、金融逼迫で経済成長はいっそう困難になると見られていたという。
  イラク軍のクウェート侵攻は米国経済がこうした状況にあるときに起きた。石油価格の高騰が、すでに弱まりだしていた米国経済をさらに弱める可能性は高い。
  それだけではない、一千六百九十億ドルに上っている連邦財政赤字の縮小策の一つとして一部に期待が大きかった<エネルギー税>引き上げも、石油価格の高騰で先送りされそうだ。米国民が石油価格の上昇と増税を同時におとなしく受け入れるとは考えにくい。財政赤字の縮小の遅れは、外国資本の米国債購入意欲を削ぐという悪循環を生み出し、国家財政をさらに苦しくすることになるだろう―。

  『時事通信』は十五日、「<イラクのクウェート侵攻による原油価格の高騰はインフレを加速し、経済成長を鈍化させる>としながらもスイス・ユニオン銀行は、石油価格が四倍になった七三年、二倍になった七九年に比べれば、今回の上昇は二七%にすぎず、<主要先進工業国への影響は少ない>と見ている」と報じた。
  八〇年代に成長と基盤強化を持続した日本や西独はともかく、スイス・ユニオン銀行の観測は米国にも通用するだろうか。
  世界の原油価格の高騰で、ブッシュ大統領の地盤であるテキサスやその他の産油州の経済が持ち直し、それが全米に好景気をもたらすのではないかとの期待もあるようだが、いまの米国経済が七〇年代と同じ活力を持っているとは思えない。

  危機の拡大を恐れるブッシュ大統領は同盟国フランスが尻込みするほど強硬に対イラク封じ込め作戦を展開している。その狙いについてはさまざまな憶測があるようだが、十分に納得できる説明はまだなされていない。石油戦略面からいえば、原油価格が一バレル当たり二十八ドルまたは三十ドル以上になれば、米国の石油は国際競争力を回復するという。だが、そこまでの価格上昇とそれと同時に進行するであろう総合的なインフレを吸収し、反発する力がいまの米国経済にあるかおうか―。

  ブッシュ大統領が、インフレ抑制のために、価格引き上げ派のイラクを力ずくでも押さえ込みたいと考えているのか、あるいは、この危機を利用して一バレル当たり三十ドル以上の持っていき、テキサスなど米国石油の国際競争力を回復したいと願っているのかについては、まだはっきりしない。いずれにしても、同大統領がいま深い危機感を抱いていることだけは疑いない。

------------------------------

 〜ホームページに戻る〜