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1990年9月4日

米国とエネルギー


  米国の全消費エネルギーの四三%は石油で賄われている。以下、天然ガスが二二%、石炭が二二%、水力が三%となっている。原子力は六%だ。
  石油だけで見れば、米国の輸入依存率は一九六二年ごろは二〇%、第一次、第二次石油ショックの中間に当たる77年に五〇%に近づいたことがあるが、その後ふたたに低下し、八五年には三〇%強程度までに戻していた。ただ、八六年からは輸入依存率がまた高まり、ことし九〇年はいまのところ、五〇%を超える状況となっている。自動車を走らせ、産業を動かし、料理をすませるなどして米国人が使用するエネルギーの半分近くが外国から輸入されているわけだ。

  ことし五月までの統計によると、原油と石油製品の対米供給量が最も多いのはサウジアラビアで、全体の一四・九八%。ベネズエラとナイジェリアがそれにつづいて、順に一一・九六%、一一・二三%となっている。カナダとメキシコからの輸入もそれぞれ一〇・九七%、八・五三%と比較的に高いものとなっていた。
  中東産油国の中でサウジの次に比率が高かったのは問題のイラクで、七・二八%。今月二日にイラク軍の侵攻を受け、米国の中東派兵の直接のきっかけとなったクウェートは一・四四%にすぎなかった。派兵の一義的な目的が、クウェートのジャビル首長体制の保護・回復ではなく<米国への最大の石油供給国サウジを防衛すること>にあったことは、これらの数字からも明らかだと思われる。

  『時事通信』によると、東海銀行は先月二十三日、中東情勢の緊迫化に伴う原油価格上昇が日米経済に与える影響の試算を公表した。
  この試算は結論として、原油価格は(イラクのクウェート侵攻という)「紛争前の水準を五ドル程度上回り、二十五ドル程度で落ち着く」とし、「わが国(日本)への影響はさほど心配ない」と述べている。仮に一バレルが四十ドルまで高騰した場合でも、日本では、卸売り物価は三・八%、消費者物価は〇・九%押し上げられるだけで、貿易黒字幅が二百億ドル減少し、経済成長率が〇・八%下落する程度に終わるだろうということだ。
  それに比べて、米国がこうむる影響は大きいそうだ。一バレル=四十ドルの原油は米国の卸売り物価を五%、消費者物価を二・三%も押し上げ、貿易赤字を百八十億ドル増加させると見られている。実質成長率も二・〇%下がるという。
  二十九日現在、二十六ドル程度となっている原油価格がどう動くかは中東情勢の変化で決まる。サウジ―イラク国境を中心舞台として米軍とイラク軍が対峙している状況では、価格に対する不安は消えない。

  米国で最も信頼されている経済専門家の一人であるサム・ナカガマ氏が独特の予測を発表している。米国がリセッション入りすることはなく、むしろ、一九九一年には経済は上向き傾向になるというのだ。同氏は、現在の中東危機はことし中に解決するとして、@輸出の増加で貿易赤字が減少しているA製造業で在庫が減少しているB金利が低下している―などを成長説の根拠としている。同氏はまた、「イラクのフセイン大統領は全世界と敵対しており、勝利することはない。対イラク経済制裁は効果を発揮する」とも断言している。
  ブッシュ大統領を喜ばせそうな予測だが、いまのところ、米国経済界や投資家の多くが同氏の予測をそのまま受け入れるようには見えていない。