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1990年9月10日

米国の勝利


  サウジアラビアへ軍隊を派遣したブッシュ大統領に<本当の勝利>と呼べる勝利はあるのだろうか。あるとすれば、それはどんな形になるのだろうか。

  専門家の中には、数週間以内に米軍側からの対イラク攻撃があると予想する声もある。両国が交戦状態になれば、イスラム聖地を守れとのかけ声のもとに団結したアラブ世界と米英軍が<ベトナム戦争型の>泥沼戦争に入り込むのではないかとの考えも一部から出ている。

  『ロサンジェルス・タイムズ』が先月三十一日、世論調査の結果を発表し、米国人の二四%が<イラクのフセイン大統領を放逐することが米国の勝利だ>と考えており、同じく二四%が<イラク軍のクウェートからの撤退>を<勝利>の条件として挙げていると報じた。
  ただ、他の二三%は<米国人人質を無事に解放させること>で十分に<勝利>だと回答しており、イラクに対する<米国の勝利>に関する考えが国民のあいだで必ずしも一致していないことも明らかになっている。

  一方、ブッシュ大統領が米軍を中東に派遣した理由については、米国人の五〇%が<米国への石油供給を確保するため>と見ていたほか、<クウェートへの侵攻が割に合わないことをイラクに知らせるため>という回答も四五%に達していた(複数回答)。直接的な米国の利益確保とイラクに対する米軍の力の誇示を、米国人の半数近くが承認したものと見られる調査結果かもしれない。
  <米国人の生命を保護するため>が二八%でそれらにつづき、ブッシュ大統領が派兵理由として挙げていた<サウジアラビアを防衛するため>はわずかに一三%、<クウェート政権を再樹立させるため>は一一%にとどまっていた。
  同大統領の政策上の建て前は十分に理解されているとは言いにくい状況だが、<米国の利益と威信のためなら必要な行動をとるのだ>という国民の考えは浮き彫りにされたようだ。

  今回の中東危機への対処方法に関しては、ブッシュ大統領は七三%の高い支持を集めている。派兵には、男性の七三%、女性の五三%、平均六四%が賛成していた。
  回答者を教育水準別にみると、派兵支持は大学進学者が七二%、高校卒業者が六一%、同中退者が四五%となっており、教育程度が高いほど、米軍の中東派遣に理解を示していた。
  高校中退者が集中する低所得者層が、国際問題の解決に米国が乗り出すことより国内問題の解決を優先させて考える傾向がここでも明らかになっている。

  四日の連邦下院外交委員会でベーカー国務長官は、イラク孤立化政策が効果を上げるまでには時間がかかると強調、当面は経済封鎖の完遂に重点を置いて外交的解決を目指していくとの方針を示した。また、今回の危機が解決したあとでも、米軍は中東で<一定の役割を果たすべきだ>と述べ、海軍を中心に、長期にわたって軍展開を行う姿勢を明らかにした。
  同長官にとっては<今回の危機の解決>は必ずしも<米国の勝利>を意味してはいないようだ。

  対イラク経済封鎖の持久戦だけでも、米国が費やす経費は莫大なものになるだろう。<勝利>が見えない戦争に苛立つ国民が、米国の威信失墜を理由に、ブッシュ大統領に攻勢に出るよう圧力をかけるという可能性も残っている。米国民の忍耐力も試される状況となってきている。