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1990年9月17日

日本の分担


  イラクが引き起こした湾岸危機の長期化が明確になるにつれて、同地域で産出される石油の大輸入国である日本に対する<貢献要求>の声ががますます大きくなってきている。
  『ウォールストリート・ジャーナル』紙はすでに先月三十一日、米国の木材製品の輸入、特許、関西新空港工事の入札などの問題で、日本は以前に行った約束どおりには市場開放を行っていないとの見方が多いと述べたあとで、湾岸危機に言及、「危機の影響を受けた諸国に対する日本の援助計画は不十分だと多くが見ている」と指摘している。ケンパー・ファイナンシャル・サービスの経済専門家デイビッド・ヘイル氏の「(中東の)石油産地を守る軍事行動費を含めて、米国の費用の三五%から四〇%を出すよう日本に期待してもおかしくはない」という意見がその代表例だ。

  『ニューヨーク・タイムズ』紙は同三十日と三十一日の<社説>で同じ問題を取り上げた。
  三十日は、湾岸危機に対するブッシュ大統領の対応を「ほとんど欠点がないもの」と賞賛したうえで、米国の同盟国全体に対し、「同盟国ははたして(米国の)軍事・経済的負担に対する公正な分担を行っているだろうか」との疑問を提出、英国とフランスに関しては「サウジアラビアへもっと軍隊を送ることができるはずだ」、エジプトについては「数千人の派遣では十分とは言えない」とそれぞれ注文をつけている。
  同紙は日本と西独に対しては「石油供給を確実にするために必要な水準の貢献を両国ともまだ開始していない」と指摘している。
  翌三十一日には同紙は、今度は日本だけを標的として<貢献>問題を再論している。日本が前日発表した十億ドルの資金提供計画につて同紙は「前線で包囲されている湾岸諸国家を支援するという東京の約束がまだぼやけたままであるのは残念なことだ」と述べ、さらに、この金額は「日本の湾岸石油に対する依存度、世界で重要な役割を果たしたいという新たな望みにふさわしい日本の貢献度にはまだ近づいていない」と強調している。

  米国政府は、さきに訪日したブレイディー財務長官を通じて日本政府に対し、すでに支援が決定しているエジプトとトルコ、ヨルダンの三か国への二十億ドル、多国籍軍への十億ドルのほかに、多国籍軍支援額をもう十億ドル上積みするよう求めている。
  連邦下院は十二日、日本が湾岸危機で十分な貢献を行っていないとして、在日米軍五万人の費用の全額負担を求める法案を賛成三七〇、反対五三で可決した。

  『ロサンジェルス・タイムズ』紙は十三日、ほかとは異なる調子の<社説>を掲載した。「なぜ日本と西独をスケープゴートにするのか」「サウジアラビアやその他の国も十分には拠出していない」との見出しがつけられたこの<社説>は、国外に一千億ドルの資産を持つといわれるクウェートがことし、米軍派遣費として二十五億ドルしか出さないこと、危機発生以来の原油価格高騰で、サウジだけでも“毎月”三十億ドルの増収があることなどを指摘、日本や西独などの「他の友人や同盟国」がいっそう貢献することは当然だとしながらも、サウジやアラブ首長国連邦、バーレーン、オマーンなど、米国の出兵で政権が直接守られている国々にとっては、出兵費用をの大半を引き受けたとしてもその費用は安いものだ、と述べている。

  今度の危機でも、日本政府の対応は遅かった。
  だが、一部の“外圧”に負けて拙速を重ね、国の基本を曲げるようなことがあってはならない。世界、特にアジア地域で広く認知されている日本国憲法の枠内で、どう世界に貢献できるかを日頃熟考してしていれば、国際的な緊急危機に際しても、特にうろたえることはないはずだ。
  政治的バックボーンを欠く自民党政府がこれから打ち出さざるを得ない対応策を国民は十分に監視する必要がある。