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1990年9月19日

軍事的必要


  近年の『ロサンジェルス・タイムズ』が日系人の戦時立ち退きに関して公平な見方を示し、その補償問題でも理解のある論評を行ってきたことは、在米日系人にはよく知られていると思う。
  カリフォルニア州議会のギル・ファーガソン下院議員(共和・ニューポートビーチ)が議会に、州内の公立学校で使用される教科書の記述を<日系人の戦時収容は軍事的に必要な措置だった>と書き換えることを求める決議案を提出したことについても、同紙は先月二十八日の<社説>で、同下議を厳しく批判している。
  この<社説>はファーガソン下議の見方を「奇怪な意見」と評し、「不正確で危険なもの」と断定している。
  同下議の主張は<第二次世界大戦中に、米国西海岸に住んでいた日系人約十二万人が家を追われ、収容所に入れられたのは国家の安全保障と軍事的必要のためだった>というもの。この<社説>は、同下議が提出した決議案に「日系人が強制収用所に収容されたというのはまったく事実ではない」と帰されていた点についても「正しくない」と指摘し、「ファーガソン下議が歴史を改訂しようとしても、歴史的事実は変更できない」と述べている。

  カリフォルニア州議会は昨年、公立学校の教科書指導要領を変更し「日系人の収容所体験に関する正確で客観的な見方」を生徒に教えることを求める決議を行ったばかりだ。
  『ロサンジェルス・タイムズ』の<社説>は、同州の教科書が全米の教科書出版会社や教育者によって全国基準として扱われる点を重視、問題を明確にしておくことが大事だと説き、「歴史を書き換えようというファーガソン下議の試みは愚かな努力というだけではなく、潜在的に危険なものだ」と結論づけている。

  同紙五日の投書欄に、この問題に関するいくつかの反応が掲載されていた。
  サウザンドオークスのスタン・カワシマさんは、ファーファソン下議が<強制収容所>を<転住センター>と言い換えることができるなら、次には、被収容者のことを<ゲスト>と呼ぶことになるだろうと述べ、同下議を批判している。
  同下議を支持する意見もあった。ラグナヒルズのアリス・スラッツさんは、対戦中に反日本人感情が高まったのは(日本人に対する)恐怖がほんとうにあったからだと主張、「どんな国にも自分を守る義務がある」と述べ、同下議を批判した同紙を「外国支持の新聞」と決めつけ、不快感を表明している。

  このスラッツさんの意見は、ファーガソン下議の決議案がどういう人々を足場にしているかを良く示しているだけでなく、その内容において同下議のものよりいっそう危険なものになっている。
  国が<自分を守る>ためとの口実で、反逆の事実はもちろん、その意思のかけらもない大量の自国民を好き勝手に強制収用することができるとすれば、その国はもう民主主義とはまったく無縁の専制政治の国だ。
  <外国支持の新聞>だとの非難も、狭隘な排外主義者の賛同は得るかもしれないが、公正な判断を求める国民大多数からは反発を食らうだけだろう。何より、収容された人々の多くは<外国人>ではなく米国生まれの<米国人>だった、という事実をスラッツさんは、たぶん故意に、無視している。
  また、<恐怖>などという心理的な理由を基に国が何でもなしえるとする考えは、ナチスの例を持ち出すまでもなく、その危険さが歴史的にすでに証明されていることだ。

  ファーガソン下議への同調者が下院に三人もいたという事実も忘れてはならないだろう。現在の<米国の停滞>への苛立ちを偏狭な<排外主義>に短絡させてはならない。