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1990年9月21日

信用の獲得


  ニューヨーク市立大学の霍見芳浩教授が十八日の『ニューヨーク・タイムズ』に投稿し、日本の中東貢献策について意見を述べている。
  同教授はまず、米国によるイラク封じ込め作戦に対して日本が示した優柔不断ぶりを一部米国人が怒るのは理解できるとしたあとで、「日本を責めたからといって、この作戦の、いくらかかるとも知れない経費を日本が負担することにはならない」と述べ、自らが提唱する<日本の貢献策>を紹介している
  その内容は@米国がイラクに毎年輸出していたと同じ三十万トンのコメを日本が米国から購入し、多国籍軍と難民のための物資とともに日本の船舶・航空機で中東地域へ運ぶAエジプト、ヨルダン、トルコの三か国に二十億ドルの緊急経済援助を行うBヨルダンに集まっている難民を助けるために百人の医療派遣団を送る―となっている。
  同教授は、日本の貢献策の発表が遅れたのは官僚主義の政治形態のせいだとする一方、米国の対日要求が誤解を招きやすく、矛盾が多いものであるために、日本政府を混乱させ、官僚の行動をますます遅らせていると指摘、特に、日本に対し米国が掃海艇と軍隊の中東派遣を求めたことに言及し、西独憲法と同様に、軍隊の国外派遣を禁じている日本国憲法を改定させようというのが米国の真意ではないかとの疑念が(日本国内に)持ち上がっていると述べている。
  日本国憲法の改定の可能性についても同教授は、二十一世紀では必要になるかもしれないとしながらも、改定は中東危機の解決後、地球全体の安全保障に関わる国連の役割の見直しと関連させて検討されるべきだとの考えを示している。その国連の役割見直しには日本と西独の常任理事国入りの検討も含まれている。
  また、米国が日本に対して在日米軍の駐留経費の負担増加、米国製兵器の購入を求めたことについては、ペルシャ湾岸問題を日米間の貿易・安全保障問題の解決に利用しようとするものと批判している。
  霍見教授は、米国が日本と西独の最大限の支持を求めるなら、国連の権限を強化し、その下で集合的な安全保障に取り組んでいくという方向で、イラク封じ込め戦略をこの二か国と協議するべきだと主張している。

  自民党の中に、小沢幹事長を中心に、制服自衛隊員の海外派遣をこの際一気に合法化させようという動きがある。同幹事長らが次には<制服“武装”自衛官>の派兵を可能にするべきだと言い出すことは明らかだと思える。
  日本の中東石油への依存率は六七・九%(一九八七年)だ。中東がイラクに完全制圧されたら―との不安感、危機感を利用して自衛隊認知ムードを高めようと小沢幹事長らが力を入れるのは、軍隊完全合法化を主目標とした憲法改定を党是とする自民党の論理としては当然かもしれないが、視野の狭い危険な考えだ。

  地球上の武力紛争を大国が独自の軍事力に物を言わせて解決しようという時代は過去のものになろうとしている。
  『週刊朝日』(九月十四日号)の座談会で東京大学の大沼保昭教授は「日本国憲法ぐらい国連体制と合致している憲法は世界中にない」と語り、国連の枠内で日本は世界に貢献できるとの考えを示している。
  英国労働党のニール・キノック党首は十四日、『朝日新聞』の記者と会見し、「私は日本が憲法を改定することを望まない。世界一の経済大国が軍事国家ではないということは、これまでの歴史になかったことで注目すべきこと。経済および財政支援で世界平和に貢献することによって日本は信用を獲得し、評価を高めることになる。憲法改定はそれに逆行する」と述べている。

  米国からの感情的な支援要求に回答することに性急なあまり、<平和憲法>を持つ国として日本が世界にどう貢献できるかの検討をおろそかにすることがあってはならない。今回の中東危機は日本にとって、国連を舞台とした活動を通じてどう世界の信頼感を勝ち取ることができるかの試金石だともいえよう。