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1987年12月22日

ニュース写真



  十八日の<ロサンジェルス・タイムズ>でソ連の中距離核ミサイルSS20の写真を見た。米ソ首脳会談の際のあふれるような報道合戦のあとでは特に珍しくもない写真だったが、それに付されていた見出しに目をとめてしまった。

  <プラウダ>紙、SS20の“別れ”の写真掲載>

  <タイムズ>は、この写真はSS20への一種の“お別れ”記事とともに掲載されたと報じていた。
  ソ連共産党機関紙がSS20の写真を掲載するのは、十七日のこれが初めて。ソ連国民は初めてこの核ミサイルの姿を写真で見ることになった、という。
  <プラウダ>の防衛問題専門家であるプロハノフ氏は、ソ連防衛のためにこれまで重要な役割を果たしてきたこの兵器を“死を招く機械”と呼び、「われわれは(この兵器にこれまで費やしてきた)専門知識、資源、技術をいま、もっと生産的な分野で利用しようとしている」と強調し、こうした資源利用の転換こそが、ワシントンで開かれたゴルバチョフ書記長とレーガン大統領の首脳会談で調印された、地上発射中距離核ミサイルを世界から廃絶しようという条約が持つ重要なメリットだ、と述べているという。


レーガン大統領(当時)
(From:http://www.pbs.org/merrow/tv/trust/resources.html)


ゴルバチョフ書記長(当時)
(From:http://www.fundokin.co.jp/yaeko/episode/22/vol22.html)

  同氏は、もちろん、一方で「核ミサイルを解体したからといって、防衛意識まで解体しようというものではない」とつけ加えている。だが、ソ連共産党がその機関紙で、直接国民に向け、軍事(核兵器)よりも大事なものがあると訴えたことの意義は大きい。
  政治の世界でのことだから、また逆転がないとは言い切れないが、ソ連内での価値観の多様化がとりあえずは端緒に着いたと見ていいだろう。

  <タイムズ>紙はまた、ソ連科学アカデミー・社会学研究所が行ったアンケート調査の結果も紹介している。モスクワ市民五百人に意見を尋ねたこの調査では<調印された中距離核戦力(INF)全廃条約はソ連にとって危険だ>という意見はわずかに八%だった、また三七%の市民が<この条約によってソ連の安全はかえって高まる>、四三%が<この条約を結んだからといってソ連の防衛能力が落ちることはない>と考えていることが判った。
  ソ連国民がSS20の写真を見るのが初めてなら、米国でこうしたアンケート調査の結果を知るのも珍しいことといえる。

  各国新聞社、通信社が選ぶ今年の世界の重(十)大ニュースのトップにはこの米ソ首脳会談と<条約>調印が挙げられるに違いない。
  今度の軍縮気運がかつてない盛り上がりを見せているのは、ゴルバチョフ書記長のソ連国内、国外での活発な開放・改革政策宣伝に負うところが多いように見えるが、もちろんそれだけが理由ではない。
  不安定な農業、効率の悪い工業に悩まされながらソ連が膨大な軍事費の負担に喘いでいる一方で、米国も、膨大な軍事費を負担するためにいびつ化してしまった経済の建て直しに、遅れ馳せながら、本気で取り組まざるをえなくなっているのだ。

  今度のINF条約で廃絶される核兵器は、両国が保有している総量のほんの数パーセントにすぎない。だが、どこかで折り合いをつけなけれb、米ソ双方を深刻な経済破綻が襲いかねない。
  最近の株価、ドル価の不気味な動きは、その破綻の日の到来に警鐘を鳴らしているのかもしれない。

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