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1989年2月27日

排日気運


  「これはちょっと恐ろしいことになってきたんじゃないか」とA君が言う。
  「一方で、七〇%が日本に好感を示す、ともあるじゃないか」とB君が返す。
  「いやいや、八〇%のアメリカ人が、日本企業に米国企業の買収を許すべきではない、と考えているという事態は、これは深刻だよ」とA君。「八〇%だよ!」と声の調子を上げる。
  二人は、<ABCテレビ>と<ワシントン・ポスト>紙が二月中旬に米国内で行った世論調査の結果について論じている。
  B君が再び、「でも、一方で、六〇%が日本は信頼できる同盟国だ、とも考えているじゃないか」と、楽観論を展開しにかかる。
  「いや、ペレストロイカのゴルバチョフ書記長の人気がいくら上がったにしても、ソ連の軍事力よりは日本の経済力の方が米国には大きな脅威だ、というアメリカ人が四〇%もいるというのは…」とA君も譲らない。
  「まあまあ、二人とも冷静に…」と、C君が新たに会話に加わり、「ことほど左様に米国民の日本観は揺れているということだよ」と結論づける。

  A、B、Cの三君は、実は架空の人物だ。だが、いま日本人が集まって日米関係を論じれば、話は大方そんなふうに展開するのではないだろうか。C君の最もあいまいな立場が最も成熟した意見とみなされて、結局は問題の核心にまで話が届くことなく…。

  オーストラリアの<オーストラリアン>紙が十一日に「われわれは日本の資本を必要としている」という意味の記事を掲載したそうだ。
  同国では、進出日本企業が @国全体のおよそ二割に当たる八十億ドルを輸出している A三万人を直接雇用している Bシドニー〜メルボルン間の不動産開発の十分の一を受け持っている、などの事実を挙げて、「日本資本なしでは、豪経済が大混乱に陥るのは一目瞭然だ」と断じた記事だという。
  この記事には、まず現実を直視することから対日関係の検討を始めようという姿勢が見える。同紙は、日本企業による対豪不動産投資の「急激な増加は、豪側業者の猛烈な働きかけの結果でもある」との日本貿易振興会(ジェトロ)の談話も紹介したそうだ。

  ロサンジェルス地区商工会議所の見積もりによると、南カリフォルニア五郡では、約六万五千人が日本企業で働いているほか、日本からの不動産投資で州と連邦は一九八八年、半ばまでだけでも六千八百八十万ドルの税収を得ている。
  だが、そうした事実は米国人には正確に伝わっていない。伝える努力を日本側がしているようにも見えない。

  ブッシュ大統領は二十一日の記者会見で、@日本の対米投資残高は英国、オランダに次いで第三位でしかない A米国の巨大な財政・貿易赤字の補填に外国資本は役立っている、などと国民に説明し、日本の対米投資批判を牽制した。―まず現実を見つめるよう米国人に求めたものだ。

  ところで、日本政府の対応はどうなのだろうか。自国企業による対外投資問題についての明確な政府見解は耳にした記憶がない。

  日本企業によるホテル買い占めに業を煮やしたカナダ公園庁が先ごろ、夏の観光ピーク時には、全部屋数の三〇%をカナダ人のために確保しておくようバンフ国立公園内のホテルに義務づけることを決めた。日本人観光客の部分的な締め出し策だ。
  現実的で有効な対応を日本政府が怠っているあいだに、世界的観光地でも、排日気運が高まってきているようだ。

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