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1990年6月28日

労働生産性


  『ロサンジェルス・タイムズ』のボブ・ベイカー記者が十九日の同紙に次のような記事を書いていた。
  支持政党に関係なく、米国の産業、教育、労働各界の指導的人物を集めて構成されている<米国の労働力の技能に関する会議>(CSAW)が今月十八日、危機的状況となっている米国の生産性を回復させるためには、西欧やアジアの工業国にならって、教育制度と基本的生産哲学を根底から再構築するしかない、との報告を行った。
  同報告は、四年制大学に進学しないすべての生徒に、一定の学業を修めたことを証明する証書を十六歳までに取得するよう求めるほか、支払い給与の一%に当たる金額を従業員教育に使用するよう企業に義務づけることなどを提案している。
  また、米国より教育程度が数段高く、分担する責任範囲もはるかに広いために、結果として企業の生産性を向上させ、高質の製品やサービスを産み出している海外の労働者に対抗していくためには、米国はただちに巨額の資金を公的教育と職場での従業員教育に投じなければならない、と同報告は訴えている。
  米国にとっての問題は、教育に関して全米一律の基準を設けたり、法律を改正したりして、企業が短期利益の追求に走るのではなく、労働者の技能を向上させるのに必要な長期的投資を行うように仕向けることに、強い抵抗があることだ。
  そうした風潮について同会議の議長であるウィリアム・ブロック前労働長官は「米国が未熟練労働と低賃金に支えられた経済に落ちていく状態を黙って受け入れることで、われわれは子供たちと自分たち自身を低い生活水準に落としこんでいるのだ」と警告している。
  米国の低生産性を示すものとして報告はマスプロダクションに触れ、「労働を単純作業に細分する従来のマスプロはすでに時代遅れだ」と断じる一方、米国ではそれに代わるものととして紹介された生産方法が、工場のラインワークをロボット化して世界の優良企業となり、ラインワーカーを監督する仕事を増加させるだけに終わった、と批判している。米国の大半の企業では、教育と高度の訓練を受けた少数のエリートが、最低限度の技能しかない他の四分の三の労働者を指揮する“時代遅れの”システムに頼っており、米国の全企業が使っている従業員教育費三百億ドルのうち第一線ラインワーカー用に使われる金額もわずか七%にすぎないという。
  利益低下に対抗するために多くの米国企業が採用した方法は、賃金削減あるいは第三世界への生産“外注”だった。根本的な改革で生産性を向上させようとした企業は少なかった。そのため、米国の労働者の賃金はこの十年間で物価上昇に一五%も後れをとってしまっている。同報告は、企業が労働者を搾る<低賃金戦略>をこれ以上押し進めても、貧富の差をいっそう広げる危険が大きくなるだけだと指摘し、今後は現在中間管理職に任されているのと同程度の仕事が“生産チーム”を組んだラインワーカーにできるようになる“高技能”システムを採用して、生産性を上げることが必要だと協調している。
  米国の労働者生産性はことし、年率に直すと二・七%の下降を見せている。
  同報告によると、米国の企業主の九〇%はいまでも、労働者の低い技能を問題視しておらず、求職者の教育程度よりは社会的行動はどうか、時間どおりに働くかどうかの方に気を配っているという。
  危機感を最も抱くべき最前線の企業人たちが最も無関心であるのでは、米国経済の立て直しは難しい。

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